ノーマン・ロックウェルの画集

とにかく彼の描いた絵は、私には絵とは思えない。彼が自分一人で自分自身の持つエピソードを書きまくったものなのか。とにかく、彼の絵を見て、「そうだ、そうだ」と思ったり「おれも大賛成!」と、大声を張り上げたくなったりする。 この男をご紹介しよう。でも、アメリカではもちろん、日本でも「特別に好きな画家」と思っている人が多い。私も、ノーマンは犬が大好き、野球も大好き、アップルパイも大好きで、あのロックンロールに夢中だったとか聞くと、とにかく、陽気なアメリカ人だったのではないかと思う。そんな魅力にひかれて、世界中のファンたちが、彼の絵を見にやってくるのだと私は考えている。アメリカ人がロックウェルを敬愛する理由は、彼が夢を視覚化したことだと思う。だからアメリカ人の生活の中に、「ロックウェリアン・イメージ」という言葉がよく出てくるのである。そして彼の「子供好き」ときたら、それだけでもう日本人にもファンが増えるはずだ。年寄りの夫婦、若いカップル、小さな子供達、そして何より彼の描く「犬」が欲しくなる。こんな風に書けば彼がどんな人間か、彼の絵を見なくても分かっていただけると思う。彼を取り巻く世間の目は、いつも細かく嬉しく楽しい。しかし、時には評価が厳しすぎて可哀相に思うこともあったが。私は彼の描いた絵は一枚も持っていないけれど、彼の描いた彼の顔を、Tシャツにプリントして、着ていたのを覚えている。でも、彼の描いた絵はみんな欲しい絵ばかり。毎日見ていても飽きないのだ。そこで考え直した。絵でなくても、彼には今までの絵を集めたアルバムがある。絵そのものを集めるよりも、画集を次から次へと集めたほうが効率が良いと思ったのである。誠に哀れな収集家である。でも、もうこれで十分だ。彼ももう過去の人。一九七八年に八十四歳で亡くなっている。でも、アメリカヘ行ってみると、依然としてノーマン・ロックウェルの名声は健在であり、各地にある彼の美術館などは、羨ましいほどファンが詰め掛けている。 さて、ロックウェルも大好きだったスポーツ。アメリカでは野球とアメリカン・フットボールが何といっても人気が高い。スポーツはアメリカ人の日常生活の中に溶け込んでしまっているのだ。それに比べて、日本はゴルフやスキーが人気。これらのスポーツは日常生活には関係ない。「ファッション」だって、同じだ。お酒落と言う事も、日常生活の中で始まり、溶け込んでいなければならない。ところが今の日本人のお洒落は、日常生活からはなれ過ぎているような気がする。私は、今こそわが国の日常生活の中にあるファッションも、考え直す絶好のチャンスではあるまいかと思うのだが。時代は今や、維新であるぞよ!

株式会社経済界
1998年12月号 蘇る!
「僕の宝物図鑑/第18回 
ノーマン・ロックウェルの画集」より