三宅一生さんとあなご屋
 

石津は先のバー(*1)と同じ小道にあるあなご専門店(*2)も同じく贔屓にしていた。その距離、バーから約30メートル。 はしごするには便利すぎる。今どき珍しく知る人ぞ知る小体な料理屋だから、店のオーナーの人柄がしのばれる。味のほうは保証付きだろう。今でもオーナーは石津の着物姿を忘れられない。「先生が三宅一生さんとフランス人の男女カップルをお連れになったことがあるんです。
先生は江戸時代の町人が着ているような、淡いブルーの道行きの格好をしてて。みんなで記念写真を撮ろうとなったら、先生ご自身で近所のカメラ屋に行って、インスタント・カメラを買ってきた。フランス女性が道行きの着物を褒めたらあげちやったんです。でも、最初からあげるつもりで着てたんでしょうけど」とオーナーはいう。

宇田川悟
VANストーリーズ
石津謙介とアイビーの時代
集英社新書より

(*1)四谷荒木町にあるBar
「 Pigalle(ピガール)」。
石津謙介馴染みの店である。
(*2)同じく荒木町にある穴子と鮟鱇の店
「たまる」。古くて小さな目立たない店だが食通の評価は高い。