TAKE IVYの復刻本

昭和40年(1960年)、石津祥介をリーダーとする総勢8名のスタッフが、羽田からアメリカ東海岸へ飛び立った。目的は本場アメリカのアイビー校で、本物のアイビーリーガースを撮影した映画と本とを作ること。既に前年Men's Clubでくろすとしゆきの「街のアイビーリーガース」連載が始まっており、これの本物版、アメリカ編を撮ってこようというのが、きっかけだった。

スタッフは、映画版の監督にソルボンヌ大学で映画作りを学んで帰国した小沢協(俳優 小沢栄太郎の長男)、脚本家山本恵三、カメラマン 小林秀昭と助手、スチールカメラマン 林田昭慶、そしてVANからリーダーとして石津祥介、くろすとしゆき、長谷川元が渡米した。当時は1ドル360円の時代。また外貨も制限されていたため、祥介は日本円で500万円を持ち出し、総予算としていた。ニューヨークを拠点にした撮影チームは、レンタカーのバンに機材を詰め込みコロンビア大学、プリンストン、ハーバード、イェール、そして最も北ニューハンプシャー州ハノーバーに位置するダートマス大学まで、約2週間駆け足で撮影を行った。1965年はケネディ大統領暗殺の2年後。アイビースクールのキャンパスにはまだベトナム戦争の暗い影は感じられず、のんびりしたキャンパスの様子が映し出されている。

林田昭慶の撮影したスチールは、婦人画報社からハードカバー単行本「TAKE IVY」(著者:石津謙介、くろすとしゆき、長谷川元 写真撮影:林田昭慶)として出版された。いまでこそIVY、TRADファンの永遠のバイブルともいわれているが、当初はさほどの人気はなく、発行部数数千部の半分はVANが買い取り、得意先に配布したという程度のものだった。

ところがその後数十年の間に、この本は海外のファッション専門家の間でカルト的な人気を博すようになり、オリジナルの日本語版はeBayのオークションにおいて数千ドルで売買されるまでになる。日本でもその人気は高まり、2006年にはSHIPSの協力で限定復刻版が1000部発刊されたが、またたく間に完売したという。

そして2010年、遂に本場アメリカの出版社powerHouse Booksが、アシェット婦人画報社に依頼し、この「TAKE IVY」英語版を発売することになった。ニューヨークタイムズ紙は2009年6月17日付の記事で、この本を"a treasure of fashion insiders"「ファッション関係者の宝」と呼び、この本のコピーが複数のデザインスタジオで閲覧され、別の新たな流行を生み出すのに役立っていた、数多くの男性ファッション・デザイナーに大きな影響を与えた、と記述している。
WIKIPEDIA USA http://en.wikipedia.org/wiki/Take_Ivy

当時のVANが、本場のアメリカのIVY LEAGUERSを日本のアイビーファンに見せるために、撮影し作られたこの「TAKE IVY」が、まさに四半世紀を経て、アメリカのファッション・ピープルにこのような大きな影響を与え、本国で英語版として復刻されることになるとは、石津謙介も夢にも思っていなかったに違いない。

このTAKE IVY復刻は世界的ブームとなり、2011年にはオランダ版、そして韓国版と立て続けに発刊される。