女王陛下のネクタイ
 

さて、男のファッションについて、私が一番多く尋ねられることがある。私も一番難しいことの一つだと思う。それは、ネクタイの選び方だ。もちろん、好きなネクタイを締めればいいのだが、少し考えてもらいたいこともある。だいたい日本人はネクタイの色や柄に拘り過ぎる。今年はこの色が流行色だから、と言われてネクタイを選んでしまう。それも選ぶのは奥さんだ。奥さんでなければ、デパートの売り場の女性店員に聞いて相談する。そうでなければ、テレビのニュースキャスター(例えは久米宏さん)がしているものと同じ物を探す……。これは情ない。
そうなってしまうのも、ネクタイが本来どういうものなのか、理解していないからだ。ネクタイはもともと、ローマ帝国時代に軍人が首に巻いていたもの。今で言う認識票だった。残された妻たちが戦死した兵士たちの中から自分の夫を、見付けるための目印だったとか。それが、だんだんその個人を象徴するものとなっていった。ネクタイはそういう歴史を持っている。
つまりネクタイは本来、己を現すものなのだ。自分を主張し、人に見せつけるものと考えなければならない。だから、自分の信念を持って選ばなければならない。
流行とは、関係ないことなのである。
ネクタイの古い形のものは、まず斜め縞のストライプと呼ばれるもの。英国のものは縞が右下に下がっているが、これが、米国では逆に左下に下がっている。米国ではトラッドを敬いつつも、英国と同じものでは嫌なのだ。自分たちで独立を勝ち取った意地がある。ここらへんがおもしろい。
次に水玉模様。日本では海部元総理がしていて有名になった。これはあのチャーチルが生涯この水玉模様のネクタイしか締めなかったらしいので、最初、海部さんは、チャーチルにあやかって締めていたのではないかと思う。私はある時、これを締めていた海部さんにこう言った。「海部さん、その水玉模様をずっとし続ければ立派なダンディズムです」私がそう言ったせいかどうか分からないが、海部さんはそれからずっと水玉模様をし続けている。海部さんは、私に会うと黙って自分のネクタイを指差してニッコリと笑う。それが私にはとても嬉しい。
さて、今回の私の宝物は、エリザベス女王にまつわるネクタイ。これ1977年にロンドンに行ったときに購入したもの。たまたま、イーンの在位25周年を祝う記念に限定で売り出されていた。ちゃんとナンバーも付いている。これを持っている人は日本にはそうはいないと思う。 以上、ネクタイの大事な意味を理解していただいたでしょうか。とにかく、男だったら、体の真ん中にぶら下げているものは、一番大切にしなければいけないのである。

株式会社経済界
1997年 10月号 蘇る!
「僕の宝物図鑑/第4回 女王陛下のネクタイ」より
(文章写真共出典)