包丁歴70年の石津謙介氏の本格・バカ旨ハヤシライス
     


 

石津謙介氏、いわずと知れたファッション界の長老である。1911年の生まれというから、今年で82歳。しかし、その話しぶり、行動は、まったく年を感じさせない。元気そのものなのだ。「唯一問題なのは痛風なんですが、幸い痛風は薬がよく効く病気なんです。痛風になると、一般に旨いものを食べちやいけないといわれているんだけど、旨いものを食べて死ぬなら本望。だから僕は、遠慮なく旨いものを食べている」 石津氏の健啖家ぶりはつとに知られるところである。「僕はフランス料理とか懐石料理には興味がない。好きなのはカレー、トンカツ、餃子などで、こういうものは自分でもつくります。うどんや蕎麦、寿司、天ぷら、うなぎなどはクロウトには絶対かなわないから、もっぱら外で食べることに決めています」
 料理の腕前も玄人はだし。「僕の料理は年季が入っているんです。祖父が55歳で隠居して茶人生活を始めた。自宅に茶室を造って月に2回茶会を催すのだけれど、そのときに母が懐石料理をつくって出すんです。僕も使い走りなどさせられて、それが実に面白くてしようがなかった。子供の頃から料理好きだったんでしょうね。中学時代は野球部のマネージャーで、遠征のときには僕が料理をつくっていましたし、大学時代もキャンプに行くと料理係はいつも僕でした。中国に渡ったのは昭和13年のことですが、中国では一流の中国料理店の厨房にまで入れてもらって、料理を教わりました」なるほど、料理の腕が磨かれるのも当然である。一世を風靡したファッションブランド「VAN」の社長だった超多忙時代でも、暇をみては料理づくりをしていたという石津氏。その料理のレパートリーの中で最近のヒット作というべきものが、牛のノドブエを使ったハヤシライス。それにしてもなぜ、牛のノドブエなどという異なものを・・・。