「僕が牛タンを買いに行くのは、白金台にある杉の木屋というスーパーマーケットです。 タンだけは、ここのでなければいけない」 今日もわれわれスタッフを乗せ、石津氏自らが愛車フォルクスワーゲン・ゴルフを運転して白金台まで買い出しである。 「以前ここに来たときに、たまたまタンの付け根に何かがくっついているのを見かけたんです。 お店の人に聞いたらノドブエだという。 そのときに、ノドブエでハヤシのソースをつくったらいいんじゃないかと閃いたんです」 早速、四谷の自宅に戻って料理開始。 一見グロテスクな牛のノドブエは、野菜と一緒にじっくり煮込んでスープをとる。 「このスープがもちろん重要なんだけど、ドミグラスソースらしくするためには、スープに加えるルウと野菜の炒め方もポイントなんです。ルウは、小麦粉を丹念にブラウンのいい色になるまで炒めるのがコツ。野菜のほうは、焦げるまで炒めるのが決め手で、これを2時間煮込んだスープに加え、さらに1時間煮込んでから、シノワで漉します」 この漉し方が、実に丁寧。「野菜の旨味を一滴残らず搾り取るという感じです。 これが、僕のドミグラスソースの味わいの秘訣ともいえる。 それから隠し味にインスタントコーヒーを使うのも僕流。 苦みばしった香ばしい味がいいんですよ」かくして、3時間半もの時間を要して出来上がったソースに、炒めた牛肉や玉ネギ、マッシュルームを加えて、やっとハヤシライスが完成する。 今年で結婚61年目、1歳年下の昌子夫人と食す。 う〜ん、なんとも微笑ましい光景。二人の素晴らしい人生に乾杯である。 dancyu 1993年 4月号より |
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