67年 ケープコッド・スピリット
 

石津謙介率いるヴァン ヂャケットが当時の若者に与えたインパクトは数多いが、その中の一つが、VANショップで行なわれた春と秋のキャンペーンだった。VANからキャンペーン案内DMが来る。店に行けばそのキャンペーンテーマに合わせた大判のポスター・カレンダーが飾られ、魅力的な商品がディスプレイされている。来店しただけで貰える魅力的なノベルティ。キャンペーン商品を買えばもっと素敵なプレミアムと称するオリジナルのグッズがプレゼントされる。馴染み客ともなれば、大判のポスター・カレンダーも手に入る。

いま、VANグッズとしてコレクション・アイテムになったり、高い評価を得ているポスターや雑貨、小物の多くは、当時の販売促進策として行なわれたこれらユーザー・キャンペーンのための制作物である。

1966年、くろすとしゆき率いるVAN企画部は前年のTake Ivy、今年のバミューダに次ぐ、次年度1967年(昭和42年)春夏のキャンペーンテーマ案をケープコッド・スピリットとした。1963年暗殺されたJ.F.ケネディ大統領の別荘がメイン州Cape Codにあるというのが決め手。Paul 長谷川というアメリカ通の宣伝部CAP(課長)が持ってきたLIFE(写真大判雑誌)にはモノクロ印刷で、ちょっと寒そうな海辺やヨットでのケネディ一家の写真が掲載されていた。

しかし、くろすとしゆき始め、Paul 長谷川も誰もCape Codなんて行ったことがない。そこでCape Cod 「Spirit」(ケープコッド魂)と命名したというのが真相。石津祐介HEAD(部長)率いる宣伝部はこのケープコッド・スピリットを、始めてVAN特約店を巻き込んだ大掛かりなユーザー・キャンペーンにしようと計画。中心は意匠室(デザインルーム)の保科正CAP。ヨットに使うランタンをシンボル化し、カリグラフ調のロゴ、下には国際信号旗のCODを添えて、青・赤・黄のキャンペーン・マークが完成。このようなVANのデザイン・レベルは、いま見てもずば抜けて素晴らしい。

この年(1966年)資生堂が前田美波里を起用して、グアム島で撮影したのが日本の広告業界初の海外ロケと言われているが、当時VANはまだそこまでの予算は取れなかったため、撮影は三浦半島の油壺。冬の最中、陽射しの強いタイミングを見つけて行なった。アダムスファッションの若手モデル達、そして意匠室の藤井薫CAPらが総出で、寒さに震えながら裸になり、Tシャツで笑顔をふりまく。カメラはすでにVAN専属のようになっていた林田昭慶。そして当時としては例のないB4変形サイズの大型カタログが作られ、VANファンの憧れとなった。また、この写真は婦人画報社にも貸し出され、1967年5月号(第67集)に編集タイアップのような形で掲載され、夏のVAN商品販売を大いに後押しした。

大判ポスターとなっているカレンダーに映っているヨットは、S&B食品 山崎社長の自艇。佐島沖で撮影させて貰った。
Cape Cod Spiritのキャンペー・マークがついた美しい帆は、実は保科正による合成写真だ。いまではパソコン上で簡単にできる合成も、当時は二重撮影から色分解と、大変な苦労をして作り上げたものである。

「キャンペーン商品を買ってくれたらプレゼントする」というプレミアム付き販売も、このケープコッド・スピリット・キャンペーンから始まった。この時のプレゼント品は「チューリップ・キャップ」という白い帽子。このアイディアも保科正だったと記憶している。

この67年春夏のケープコッド・スピリット・キャンペーンは大成功に終わり、秋冬のディスカバーアメリカ・キャンペーン、68年春夏アドベンチャー・キャンペーンへと続く、本当の意味でVANのユーザー・キャンペーンのスタートとなった。

さて、このケープコッドを始めとするVANの様々なキャンペーンに、石津謙介社長はどのように関わっていたのかというと、さほどではなかったように記憶している。むしろ、謙介社長の大きな傘の下で、企画・宣伝・意匠室のそれぞれの猛者達が好きなことを勝手にやらせてもらっていた時代であったように思われる。